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東京地方裁判所 昭和45年(ヲ)828号 決定

申立人 株式会社協栄商会

相手方 伊藤正男

主文

申立人の相手方に対する東京法務局所属公証人川井寛次郎作成昭和三八年第一五一〇号公正証書に基づく有体動産差押事件(東京地方裁判所執行官昭和四五年(執イ)第七一四〇号)につき、東京地方裁判所執行官は、別紙目録〈省略〉記載の物件の差押え及び競売を実施せよ。

申立費用は相手方の負担とする。

理由

申立代理人は、主文第一項と同趣旨の裁判を求め、その理由として、別紙「申立の理由」のとおり主張する。

有体動産差押事件の記録によれば、同事件につき、東京地方裁判所執行官鈴木敏雄は、昭和四五年一一月一〇日、債務者(本件相手方)方で、別紙目録記載の物件(以下本件物件と略称)ほか一五点の有体動産の差押えをし、同月二〇日、前記場所で、右有体動産の中本件物件を除くその余の物件につき競売を実施し、石田一郎がこれらの物件を二五、〇〇〇円で競落して、ただちに右代金を右執行官に支払い、右物件を受領したこと、同執行官は、右競売の実施に先だつ同月一九日、債務者及び後記会社から、本件物件が債務者において有限会社ホンダ電器から月賦で購入しその代金が一部しか入金されていないものである旨の債務者及び右会社の上申書と右事実についての証拠としての契約書、納品書等が提出されたため、前記競売期日に、本件物件を競売の対象から除外するとともに、職権によりその差押えを解除したこと、同月二七日、債権者(本件申立人)代理人は、執行官から、前記売得金の支払いを受けるとともに、執行力ある正本の交付を受けたことを認めることができる。

思うに、強制執行の執行機関は、債権者から、法定の要件を具備した適法な執行の申立てがあるかぎり、その申立ての趣旨にそつた強制執行を実施する職責を有するとともに、一旦、強制執行に着手して所要の執行処分を実施した以上、債権者からの申立ての取下げないし差押解除の申出、民訴五五〇条所定の書面の提出等法令の定める相当の事由がないかぎり、執行機関がその職権によつて、すでになした執行処分を取り消すことは原則として許されないというべきである。

いま、本件についてみると、前記認定の事実により、執行官が債務者方住居において、本件物件を含む有体動産につき、これらを債務者の専有する物と認定して差押えを実施したことが認められ、その際に右占有の認定に関しなんらの異議の申出がされた形跡もないのであるから、その後に至り、債務者及び本件物件の所有者と称する第三者から、前示認定のような上申書ならびに証拠書類の提出があつただけで、右第三者から第三者異議の訴えの勝訴判決ないしその訴の提起に基づく仮の処分としての執行処分取消しの裁判書等の提出もないのに、執行官の職権で本件物件の差押えを解除したのは、前段の説示にてらし違法な措置というべきである。

もつとも、本件差押事件については、前記認定の経過により、差押物件中の一部につき、競売の終了及び売得金の交付、一部につき差押えの解除があつたことにより、強制執行が終了したと解するときは、本件異議申立てが不適法ではないかとの疑問もなくはない。しかし、本件物件に関してみれば、債権者の適法な申立てがあるにかかわらず、一旦は差押えを実施したものの、右申立ての趣旨にそつて換価の段階に入ることなく、債権者の関知しない間に執行官の職権で差押えを解除したというのであるから、その全過程を通じてみるかぎり、債権者の申立ての趣旨にそつた執行行為が行なわれていないことは、適法な申立てに応じた執行を拒否し当初から差押えを実施していない場合と選ぶところはないものと解すべく、債権者の執行申立ては右の限度でなお維持され存続しているものといわなければならない。したがつて、本件強制執行は、右の限度で未だ終了したものとはいえず、本件異議申立ては適法と解するのが相当である。

してみれば、執行官は、債権者の申立てに基づいて、本件物件を差押え、さらにその競売を実施すべきものであるから、申立人の異議申立てを正当として認容し、申立費用の負担につき民訴九五条、八九条の規定を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 井口牧郎)

別紙 申立の理由

一、前記執行官は、申立人の申立により昭和四五年一一月一〇日前記債務者所有の有体動産につき差押えをなし、同月二〇日競売した。

二、ところが、同執行官は競売当日、「右差押物件目録中、二号物件ナシヨナル一九吋カラーTVについては月賦購入中に付之を取消した」と競落調書に記載して申立人には何らの通知をすることなくこれが競売から除外した。

三、右取消しは、執行官の職務権限を踰越した処分であり違法不当である。

しかるに申立人は、同月三〇日付書面をもつて該物件について競売をすべき旨を催告したがその効がないので本申立に及んだ。

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